Fact or Fiction

エアプレイの魔術師びーるーむがお送りする妄想劇場

【小説】シャカシャカパチパチ 【NKT-VG】


「この人の"シャカパチ"綺麗ですね」

一つの試合テーブルを囲うギャラリーの一人が言った。
シャカパチとは手札をシャッフルする事だが、その時に
発せられる音がシャカシャカ・パチパチと鳴ることから
通称、シャカパチと呼ばれている。

(綺麗ってどういう意味だ?
 確かにカードは折れ曲がっていないし、音も大きくは無い)

過度のハンドシャッフルはカードを傷つける事になる。
やり過ぎによって、そのカードが弧の字に曲がっている事も多々見受けられる。
その少年が口にした"綺麗"の意味を考えながら呆然とプレイヤーを眺める。

「ここは、ガードします」

テーブルに投げ込まれるカード。
手札からカードを1枚置いた後に静かに手札をシャッフルして手元へ

(……?)

裏面が無地の黒色のスリーブで気付かなかった。
手札の絵柄側から見ると一目でわかる。

(カードが1枚、上下反対向いている)

プレイ自体はとても丁寧で、宣言もしっかりしている。
ドロップゾーンは綺麗に整えられカードの並びに乱れは無い。
見るからに模範的な紳士プレイヤーだと感じ取れた。

「気付いたかい?」

先程の少年が口を開く。
どうやら彼も手札の1枚が上下反対向いている事が気になったらしい。
しかし、彼はその意味を理解しているような口ぶりと雰囲気であった。

「こちらのターン。ドローします」

カードを1枚テーブルに置いた静かに手札に加える。
その後、いつも通りに手元でシャッフルを行い手札に混ぜて行く。

ゲームは静かに進んで行く。
気付いたかい?の一言が逆に気になり別の意味で試合に集中してしまう。
たまたま引いたカードが視界に入った為、手札の何処に置かれているか
その一点に注目をしてみた。

(上下反対向いているカードは手札の真中らへんにある。
 今ドローで引いたカードは、その真左にある……)

プレイヤーは呼吸をするように"シャカパチ"を行い
滑らかに手札をシャッフルして行く。
殆どのプレイヤーにとってハンドシャッフルは"癖"であろう。

元来、ハンドシャッフルとは
今山札から手札に加わったカードが何処にあるのか
対戦相手に悟られないようにするための工夫の一つである。

その1枚が前のターンからあり出し惜しみした1枚なのか
たまたま今引き込んできたから出てきた札なのか…
漏らしてしまうヒントの数がやがてゲームを左右するのだろう。


「ツインドライブ‼を行います…‼」


このプレイしているゲームでは毎ターン
ドローフェイズ以外にもドライブチェックと言って
山札の上のカードを公開して手札に加わるタイミングが存在する。
表になった2枚が手札に加えられ、呼吸するように手札がシャッフルされる。


(……‼)


「気付いたかい」


ドライブチェックにより表になった2枚は手札中央で上下反対になっている
カードの右側に置かれていた。そして、滑らかなシャッフルは定期的に行われる。
シャッフルが終わりプレイヤーが手札を確認する度に視線はその手札に落ちる。

(真中より左のカードが一切動いていない……‼??)

「そう彼のシャカパチでは中央より左のカードは位置を変えない。
 中央より右側にあるカードだけがランダムに並び順を変えている。
 手札全部を織り交ぜてハンドシャッフルを行っているが、半分より
 左にあるカードは元の位置に戻ってきているんだ」


頭の中で理解が追いつくのにどれほど時間は掛からなかった。
プレイヤーが次のターンにドローフェイズで引いたカードが
自然と手札の左側に入り、ドライブチェックで公開情報となったカードが
手札の右側に入って行ったからだ。


「こちらの2枚でガードします」


このゲームは手札のカードを捨てる事で相手の攻撃を防御する。
手札から投げ捨てられるカードは選択肢がある限り右側から吐き出されている。


(癖と思われるハンドシャッフルの中で
 自然に公開情報と非公開情報に出し方を工夫しているのか……)


もちろん、しっかりと記憶しておけば何の工夫も無く
どの札が公開情報で非公開情報は分る事なのかもしれない。
しかし、そこには少なからず神経は使うし意識しなくてはならない。

"癖の中に無意識と工夫を織り交ぜている"


「こちらは、これでガードです」


彼は少し苦しい表情を浮かべながら手札の左側
非公開情報のカードからガードを切ってみせた。


「おっ……」


対戦相手も不敵な笑みを浮かべる。
非公開情報札のガードの登場に追い込んでいる状況を感じ取れるからだ。
優先順位は人により異なるであろう、だが誰しも強いカードを手札に残して闘う。
そんな事は当たり前だということは言うまでもないのである。


「俺は何も考えずに、ただ格好良いと思ってシャカパチをしていたよ……」

 

 

Nobody Knows THE Vanguard

第0話  end